「MONA LISA」  林栄一

 2001年から2010年にかけて、つまり社会人となり、結婚して豊田市を出るまでの10年間、豊田市のJAZZROOM KEYBOARDの月次ライブをほぼ欠かさず見続けてきた。豊田市という東海道から外れた辺境にもかかわらず、そこでは新宿のPIT INNにレギュラー出演するような大物ミュージシャンが、熱狂するオーディエンスを前に、信じられないパフォーマンスを繰り広げた。20代の頃に、あのKEYBOARDのライブに通い詰めたことは、何にも代えがたい心の糧となっている。

 本当に多くのミュージシャンを見てきた中でも、林栄一は特異な存在だった。10年の間で何度も観たミュージシャンだが、主戦場たるフリーキーなプレイでは、まさしくぶっ飛んだ無調性の演奏で、安易な「共感」を遠ざける表現を取った。その一方で、例えばビクトル・ハラの「平和に生きる権利」といった楽曲を演奏するときのフレーズ構成力は、比肩するものがなく完璧で、なによりその演奏の美しさと説得力は、孤高と呼ぶに相応しいものだった。このあたりの両面は、板橋文夫(p)とのデュオライブ盤『Live at PIT INN』で堪能することができる。

 ここで紹介する『MONA LISA』は、その林栄一が、一見普通にスタンダードを演奏しているアルバムであるが、そのいきさつが面白い。林栄一をプロに引っ張った張本人である山下洋輔が、「林栄一のスタンダードを聴いてみたい」と願望し、自ら企画を林栄一にぶつけたものであるという。共演のミュージシャンもみな一筋縄ではいかないフリー系の奏者。フリージャズや音楽に限らず、先進的な表現をとる表現者というのは、例外なく「まともなこと」をやらせてもすごく上手いのであるが、このアルバムは本当に絶品。選曲の良さや各ソロを2コーラス以内と決めたルールも相まって、なんとも愛おしい演奏集に仕上がっている。山下洋輔も推しているとおり、アルバムタイトルとなったM-1「MONA LISA」がベストトラックだろうか。この作品によって、林栄一についての謎は、ますます深まったようにも思えるが、ともあれ、生涯聴き続けるだろうと断言できる、日本のジャズ最良の一枚だと思う。










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