「Dirt Farmer」 Levon Helm

  1992年、NHKで放送されたボブ・ディランのデビュー30周年コンサートで初めてThe Bandを見た。マンドリンを抱えて「When I Paint My Masterpiece」を歌うレヴォン・ヘルムを録画したビデオで繰り返し観ながら、そのルーズな格好よさに随分心酔したものである。

  レヴォン・ヘルムといえば、The Bandの解散直後から積極的なソロ活動を展開し、その鍛え上げられた天性の歌声と演奏を惜しげもなく披露していたが、お仲間オールスターによるロケンロール大会といった趣が強く、レヴォンらしさは認めながらも、どこか個人的に相容れない内容のものであった。また反対に、上述した1992年以降では、喉頭ガンの影響もあり、満足に発声すらできない痛々しい姿も知っている。レヴォン贔屓の私としても、それらの姿には少なからず不満や歯がゆさといった思いを感じていた。

 そんな私の忸怩たる思いを打ち破ってくれたのが、2006年の『Midnight Ramble Sessions』だった。ウッドストックのレヴォン・ヘルム・スタジオで行われたセッションを映像化、音源化した作品であったが、その出来はまさに出色。ガン手術の影響をまるで感じさせないどころか更に深みを増した強靭な声帯、マッチドグリップへと持ち替えて全身全霊で叩くドラムス、ともに全開のレヴォン節を楽しむことができた。なにより、レヴォン・ヘルムという人の枯れ方ということについては「こう来たか!」と思わず膝を打った。リチャード・マニュエルの老成は聴き手としてたぶん予測しやすいものであったろうが、残念ながら若くしてこの世を去った。リック・ダンコは晩年の衰え方が痛々しかった。そこへ来て、レヴォン・ヘルムである。あの南部野郎の行く末は、きっと頑固なカントリー親父になるものとばかり思っていたのが(事実、そっち方向へ走りつつあった気がする)、なんと洗練されたスーツを颯爽と着こなす小柄なじいちゃんとなって、我々の目の前に帰ってきたのである。


 本作『Dirt Farmer』と続編である『Electric Dirt』という2枚のアルバムは、ともにグラミー賞の栄誉に預かっている(『Dirt Farmer』は2008年度Best Traditional Folk Album 部門、『Electric Dirt』は2010年度Best Americana Album 部門)。彼の音楽を「サザン農民ロック」と名付けたのは、何を隠そうこのワタクシであるが、この2作における音作りは、豊穣を祈り畑仕事に精を出す農夫の日々の営みを思わせる。『Midnight〜』でのソフィスティケイトされたじいちゃん路線から、元来の頑固親父キャラにやや路線を戻しつつ、しかしその歌の深みはかつてないものだ。また、娘であるエイミィ・ヘルムとの共演は、まさしく40年近く前に発表したThe Bandの1stアルバム『Music From Big Pink』の内ジャケで表現した、家族の結びつきを基礎とした「生活の音楽」のコンセプトを地で行っている。誠実に紡ぎ上げられた彼の音楽を前に、ただただ頭を垂れるばかり、もとい、ニヤニヤしながら麦酒を呷るばかりなのである。あー、ニヤニヤが止まらない。




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