「Music From Big Pink」 The Band

 デビュー盤にして、彼らの作品の中でもひときわ静謐な雰囲気に包まれたアルバム。これは後に続く(ロビー・ロバートソン主導の)作品とは違って、リチャード・マニュエルのコンポーザー、リードシンガーとしての存在感がアルバム全体に流れる空気を支配しているためであろう。ボブ・ディランとの共作であるM-1「Tears Of Rage」からとてつもない名唱だ。よく言われることだが、68年という時代背景を考えたとき、この「娘に反抗されて弱ってしまった父親の嘆き」を歌ったスローなオープニングナンバーはさぞ奇妙なものであったに違いない。反抗の象徴であったロックミュージックの定型そのものに「反抗」したというのがいかにもひねくれていて、私は好きだ。

  そうは言いながらも、彼らにしてみれば当たり前に持っている感覚を、その豊かな音楽性をもって当たり前に表現したというだけに違いない。家族が好きだという気持ちを率直に表現したという「Next of Kin」の内ジャケも然り。ここには牧歌的な親密と、謎を湛えた静かなる緊張が漂っている。2作目『The Band』以降、これらのうち、謎の要素は急速に沈下し、腕自慢のツアーバンドとしての本質が前面に出ることになるが、メンバー間の牧歌的な親密までも失われていったのはいかにも残念なことだ。レヴォン贔屓の私としては、M-5「The Weight」だけではちと物足りないが、本作にはリチャード・マニュエルの名曲・名唱が並ぶ。M-9「Lonesome Suzie」は彼の残した最もオーセンティックで美しいナンバーだと思っている。2作目の『The Band』の構成の完璧さに比べると、私はこの『Big Pink』をいささか緊張感(あるいはある種の「欠落」と言ってもいいかもしれない)を伴ったアルバムだと感じているが、真のマスターピースとは、案外そういうものかもしれない。

  ところで、この『Big Pink』は、The Bandの作品中、唯一高校生の頃に買ったものだ。ディランの30周年コンサートの放送で見たバンドの佇まいや、ラジオで聴いた「The Weight」に憧れを抱いて買ったアルバムであったが、この作品に漂う静かで暗い印象はその期待とは裏腹で、当時は首を傾げたものだ。実際、それからしばらくはThe Bandの他の作品を買い求めることもなく過ごしたのだが、今となってはこれほど大切に思える作品もなかったりする。







inserted by FC2 system