「Highway 61 Revisited」  Bob Dylan

 伊坂幸太郎の小説には、ボブ・ディランの名がしばしば登場する。伊坂は小説『アヒルと鴨のコインロッカー』の中で、作中人物の河崎をしてディランの声をこう表現せしめている。 「人を慰めるような、告発するような、不思議な声だろ。あれが神様の声だよ」

 ディランの名作は数あれど、やはりこの『Highway 61 Revisited』は特別だ。まず何と言ってもジャケットのディランが格好良すぎる。そりゃ『Blond on Blond』も『Freewheelin'』にしても、超をいくつ付けても足らないほどの名盤に違いないけれど、愛着とか所有欲とかって、案外そんなところで決定付けられるわけで。

 具体的に記述することは差し控えるが、現実として呑み込み難い喪失と相対したときに、「神様の声」に救われたことがあった。泣き出すでもなく、どこまでも曇り模様だった私の心のうちには、きっと「無音」こそが、「自分と向き合うためには」最適の空間だったはずだ。好むと好まざると内省的にならざるを得なかったその時、エンジンをかけたばかりのクルマのオーディオから流れてきたのはディランだった。「Ballad of a Thin Man」。神様の声に耳を傾けているうち、漠然たる内省は少し和らぎ、気持ちは自然と、現実に失われたものへと向いていった。

 喪失感といえば(というフリも随分バカにしているようでなんなのだが)、村上春樹も小説『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の中で、レンタカー代理店の女性にディランのことを「まるで小さな子が窓に立って雨ふりをずっと見つめているような声」だと表現させている。小さな子、かどうかはわからないが、いまにも降り始めそうな雨の気配とディランの声とは、確かに相性が良い。 









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